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東京高等裁判所 昭和61年(行コ)2号 判決

昭和六一年(行コ)第二号事件控訴人

竹内淳(以下「一審原告竹内」という。)

同第三号事件被控訴人(附帯控訴人)

上原正光(以下「一審原告上原」という。)

同第三号事件被控訴人(附帯控訴人)

松本主税(以下「一審原告松本」という。)

右三名訴訟代理人弁護士

清井礼司

同第二号事件被控訴人同第三号事件控訴人(附帯被控訴人)

国(以下「一審被告」という。)

右代表者法務大臣

後藤正夫

右指定代理人

伊藤正高

青木正存

高橋亨

朝野實

小林佳夫

安藤三男

小塚健一

猪俣清

主文

一  一審被告の本件控訴及び一審原告松本の本件附帯控訴に基づき、原判決中、一審原告松本に関する部分を次のとおり変更する。

1  一審被告は、一審原告松本に対し、金一一万〇六九二円及び内金五万一三六〇円に対する昭和五四年九月五日から、内金五万九三三二円に対する昭和六一年九月二二日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  一審原告松本のその余の請求を棄却する。

二1  一審被告の本件控訴に基づき、原判決中、一審原告上原勝訴の部分を取り消す。

2  一審原告上原の請求を棄却する。

3  一審原告上原の本件附帯控訴を棄却する。

三  一審原告竹内の本件控訴を棄却する。

四  訴訟費用は、一審原告松本と一審被告との間においては、第一、第二審を通じ、これを二分し、その一を一審原告松本の負担とし、その余は一審被告の負担とし、一審原告上原と一審被告との間においては、第一、第二審を通じ、全部一審原告上原の負担とし、一審原告竹内と一審被告との間における控訴費用は一審原告竹内の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(昭和六一年(行コ)第二号事件)

一  控訴の趣旨(一審原告竹内)

1  原判決中、一審原告竹内に関する部分を取り消す。

2  一審被告は、一審原告竹内に対し、金五万〇一七四円及び内金四万五八七六円に対する昭和五四年九月五日から、内金四二九八円に対する本裁判確定の日の翌日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、第二審とも、一審被告の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁(一審被告)

本件控訴を棄却する。

(同第三号事件)

一  控訴の趣旨(一審被告)

1  原判決中、一審被告の勝訴部分を除き、これを取り消す。

2  一審原告上原、同松本の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、第二審とも、一審原告上原、同松本の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁(一審原告上原、同松本)

本件控訴を棄却する。

(同第六九号事件)

一  附帯控訴の趣旨(一審原告上原、同松本)

1  原判決中、一審原告上原、同松本に関する部分を次のとおり変更する。

2  一審被告は、一審原告上原に対し、金一九万八二一五円及び内金一〇万六八七六円に対する昭和五四年九月五日から、内金七万六八六三円に対する昭和六一年九月二二日から、内金一万四四七六円に対する本裁判確定の日の翌日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  一審被告は、一審原告松本に対し、金一八万八二八〇円及び内金一〇万五一五四円に対する昭和五四年九月五日から、内金六万九三三二円に対する昭和六一年九月二二日から、内金一万三七九四円に対する本裁判確定の日の翌日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第一、第二審とも、一審被告の負担とする。

二  附帯控訴の趣旨に対する答弁(一審被告)

本件附帯控訴をいずれも棄却する。

第二当事者の主張及び証拠関係

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加、訂正及び削除するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決(以下、同じ)四丁裏七行目から八行目にかけての「一万八一八三円」を「一万三七九四円」と、六丁表二行目の「六月分」を「昭和五八年五月分」と、三行目の「二二五〇円」を「五万六八六三円」と、同行目の「一九二〇円」を「四万九三三二円」と、七行目の「原告上原」から八行目の「原告竹内については」までを「一審原告らについて、それぞれ」と、一〇行目の「本件」から、同丁裏一行目から二行目にかけての「金四万七八九三円」までを「原審における訴訟の提起、追行のため相当額の金員(一審原告上原、同松本については各金四万円」とそれぞれ改め、二行目の「報酬」の前に「、また、一審被告は、原判決に対して控訴したため、一審原告上原、同松本は、更に訴訟代理人に訴訟追行を委任せざるを得なくなり、そのため各金二万円を、それぞれ弁護士」を加え、五行目の「とこれらの」から九行目の「以降」までを「、弁護士費用として、一審原告上原については金一九万八二一五円、一審原告松本については金一八万八二八〇円、一審原告竹内については金五万〇一七四円並びに一審原告上原、同松本につき前記未払賃金、減給処分による損害金、慰謝料、一審での弁護士費用の合計金額(一審原告上原につき金一〇万六八七六円、一審原告松本につき金一〇万五一五四円)に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五四年九月五日から、一審原告上原、同松本につき前記減給処分に基づく昇給延伸による損害金と控訴審での弁護士費用の合計金額(一審原告上原につき金七万六八六三円、一審原告松本につき金六万九三三二円)に対する本件附帯控訴状送達の日の翌日である昭和六一年九月二二日から、一審原告竹内につき前記未払賃金、慰謝料、弁護士費用の合計金四万五八七六円に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五四年九月五日から、一審原告ら全員につき前記各附加金に対する本裁判確定の日の翌日から、」と改める。

二  七丁裏一行目の末尾に続けて「ただし、本件各減給処分により一審原告上原、同松本が主張する昇給延伸がなされたこと、その金額が一審原告ら主張のとおりであることは認める。」を加える。

三  一一丁裏一〇行目の「一名」を「一日」と、一二丁裏六行目の「周知する。」を「周知させる。」とそれぞれ改め、一七丁裏五行目の「計画年休は、」の次に「発生した」を、一九丁裏一〇行目の「通区訓練」の前に「通区能力を養成するための」を、二五丁表一行目の「速達日勤一区」の前に「一審原告上原の担務指定である」をそれぞれ加え、三〇丁表末行の「及び一九日」を削り、同丁裏一行目の「同原告」の前に「、一九日については小包区担当の小林洋一を、それぞれ」を、三行目の「山形」の次に「及び小林」を、七行目の「速達」の次に「夜勤」を、三一丁表六行目の「未配達郵便物」の前に「六〇六〇通の」をそれぞれ加える。

四  三三丁裏九行目〔労判四六六号35頁2段目15行目〕と一〇行目の間に改行して次のとおり加える。

「12 一審原告松本の未払賃金及び附加金請求権不存在について

一審原告松本は、本件計画年休が有効に成立したことを前提として、計画年休の指定にかかる三日間の未払賃金及び附加金の支払を求めているが、一審原告松本は、本件計画年休につき、昭和五三年五月末ころ、石黒課長に対し、同課長から時季変更により付与指定を受けた同年六月一三日ないし一五日ではなく、自らの希望日(同年六月一〇日、八月一〇日及び同月一一日)を申し出た。同課長は、右各日につき業務に支障がないことを確認したうえ、右申し出のとおりに付与することにし、一審原告松本は、同年六月一〇日、八月一〇日及び同月一一日の各日に計画年休を取得した。

右のとおり、一審原告松本は、当初の三日間につき賃金の支払がないことの代償を自らの意思と申し出により得ているのであり、その結果、右振替日について、既に有給休暇としての取扱がなされているのであるから、信義則に照らし、右未払賃金を請求することはできないものであり、また、未払賃金請求権が存在しない以上、附加金の請求もなし得ないというべきである。」

五  三九丁裏六行目と七行目の間に改行して「11 同第12項は争う。」を加える。

六  四〇丁表三行目の「本件」の次に「原、当審」を加える。

理由

一  当事者双方の主張に対する当裁判所の認定、判断は、次のとおり付加、訂正及び削除するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  (略)〔労判四六六号36頁4段目「理由」から15行目の証拠の付加訂正〕

2  (略)〔同37頁2段目後から9行目~2行目の証拠判断〕

3  四五丁裏一行目〔同頁3段目後から2行目〕の「特定していた。」の次に「中原郵便局において外務職員につき班編成を組織したのは、関東郵政局長の通達に基づくものであるが、郵政集配業務に班制度を導入した目的は、班を単位として集配業務の事務を分担することによって、その責任を明確にし、チームワークによる業務の推進を図り、もって郵便集配業務の正常運用に資そうとする点にあった。」を加える。

4  四八丁裏四行目〔38頁2段目後から4行目〕の「1」を削り、九行目〔同3段目3行目〕の(証拠略)に「(証拠略)」をそれぞれ加える。

5  四九丁表四行目〔同頁同段9行目〕の「毎年」の次に「一回」を加え、六行目〔同12行目〕の「各局における」を「、右調査により客観的に把握された当該郵便局の業務量に応じて、各局における適正な」と改め、同丁裏末行〔同18行目〕に続けて「そして、右作業の前提として、各調査日当日に配達する郵便物について、配達先の順路順に仕分けした上、郵便物の実数を種類別に査数、記録し、さらに配達箇所数、配達時における交付方法別による実数、右局内作業時間、配達作業時間、その走行距離、配達に使用した機動車の清掃時間、事故郵便物の実数、その発生箇所等を計測、記録する必要がある。右のとおり物数調査は、通常の配達業務に付加してなされるものであり、そのため、外務職員の作業量は必然的に増加することになるが、右調査を実施したが故に、本来の配達業務の正常な運営に支障をきたすことのないように充分留意されなければならない。けだし、郵便局内部の調査を実施したがために、それが実施されなければ本来配達し得たはずの未配達郵便物が生じたという事態が生ずるとすれば、それは本末転倒であるというべきであり、また、郵便物の滞留が生じると、調査の目的そのものが達し得なくなってしまうからである。そこで、関東郵政局では、物数調査実施にあたっては、決められた各配達区ごとに服務計画表どおりに要員を配置し、欠区を出さないよう、更に、物数調査は調査日当日に受け入れた郵便物について実施されるものであって、その前日までに未配達郵便物があると、調査が不正確となることから、調査日の前日においても、それまでに受け入れた郵便物を完配しておくよう指導しており、かつ、右調査の目的を達成するため、各配達区には十分に通区能力のある職員が配置されることが要請されていた。中原郵便局においても、右指導に従い、従前より右物数調査実施の期間中は、通常であれば配置しないことのある小包区についても要員を配置して欠区が生じないようにし、もって、右物数調査の目的が的確に達成できるよう配慮していた。」を加え、五〇丁表末行の冒頭〔同頁4段目15行目の「5」〕から五一丁表末行〔同39頁1段目13行目〕の末尾までを削る。

6  (略)〔同頁同段後から7行以降の証拠判断〕

7  五二丁裏六行目〔同頁2段目14行目〕の「職員が」の次に「あらかじめ」を加え、五三丁表五行目から六行目にかけて〔同段後から5行目〕の「当初」を「あらかじめ提出した年次有給休暇請求書において」と改める。

8  五四丁表九行目〔同頁3段目後から3行目〕の「その後」から五五丁表一行目〔同4段目18行目〕の「石黒課長は、」までを「しかるに、石黒課長は、福島の研修所入所が決定した四月二四日、前記物数調査が実施されることからその間の業務に差し支えが生じるおそれがあるものと考え、加藤主事及び伊藤班長に意見を聞いたところ、同人らは、当初一審原告松本の年休が計画年休でもあり、頭数はそろっているということで、時季変更権を行使することについて多少の難色を示した。

しかし、最終的には石黒課長の意見に同調したため、同課長は、同日、一審原告松本に対し、計画年休を他の時期に変更するように要請した。これに対し、一審原告松本は、『そんなこと、知りませんよ』と述べただけであった。その後、加藤主事が作成した勤務指定表の原案において、なお、一審原告松本につき五月一八日から二〇日までが計画年休のままであったため、四月二七日に至り、石黒課長は、青柳副課長、小林課長代理とも相談のうえ、時期の変更を要請することとし、再度、一審原告松本に対し、計画年休を六月一三日から一五日に変更するよう要請した。これに対しても、一審原告松本は、はっきりと明確な承諾も不承諾の返答もしなかった。石黒課長は、一審原告松本の右態度をみて、右計画年休の変更を一応了承したものと考え、勤務指定表の同人の五月一八日から二〇日の『計画年休』の予定を『日勤5』の表示に訂正した。しかし、その後石黒課長は、前示のとおり五月一三日に一審原告松本が無断欠勤した態度に不安を覚え、一審原告松本に対する計画年休の変更の趣旨が徹底されていないのではないかと思われたため、」と改め、五五丁表二行目の冒頭〔同段19行目〕の「一時四四分ころ」の次に「今度は」を加え、八行目〔同段28行目〕の「(」から五六丁表五行目〔同40頁1段目22行目〕の「)」までを「なお、石黒課長が一審原告松本に対し、時季変更権を行使した時期につき、証人石黒安五郎の証言(原、当審)中には、右四月二四日及び同月二七日に既にこれを行使している旨の供述部分があり、右証言を裏付ける証拠として、その当時同証人がその旨をメモしたと称する(証拠略)の手帳の記載が存在する。しかしながら、右メモは、その記載の形式、内容並びにその提出時期からして、その当時右記載のとおりに記入されていたものであるかについて疑問があるのみならず、一審被告自身、当初は右二回の時期変更権行使については触れず、単に昭和五三年五月一六日に時季変更権を行使した旨主張し(原審昭和五五年四月一八日付準備書面(五))、あるいは、初めは任意に一審原告松本に対して計画年休の変更を要請したが、同原告がこれを拒否したため、同月一六日に至り、時季変更を通知した旨主張した(原審昭和五六年五月二六日付準備書面(一三)こととも矛盾し、また、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、本件において、右四月二四日と同月二七日の二回を除く他の時季変更権行使の場合には、いずれも第三者の立会いがあり、かつ、その際のやりとりの詳細を記載した現認書が作成されているのに、右二回について、これが作成されていないこと、前記五月一六日において時季変更権を行使した際に作成された現認書に、それ以前に既に時季変更権が行使されていることをうかがわせる言動が石黒課長からも一審被告松本からもなされていないことが認められるのであり、右事実を総合勘案すれば、右石黒安五郎の証言及びメモの記載はそのまま採用することができないものといわざるを得ない。

そして、右事実によれば、右四月二四日及び同月二七日は、石黒課長が一審原告松本に対し、単に計画年休取得希望時期の自主的変更を要請したにすぎず、時季変更権の行使は五月一六日に至って始めてなされたものと解するのが相当である。」と改める。

9  五七丁裏七行目末尾〔同頁3段目9行目〕に続けて「もっとも、前示の事実によると、石黒課長は、一審原告松本に対し、右四月二四日及び同月二七日に計画年休取得希望時期の自主的変更を要請しているが、時季変更権の行使と自主的変更の要請とは法的性格が全く異なるのであるから、事前に右要請をしていたからといって、右の結論に影響を及ぼすものではないというべきである。したがって、一審原告松本に対する右時季変更権の行使は、その余の点について判断するまでもなく無効であるといわざるを得ない。」を加える。

10  (略)〔同段23行目以降の証拠判断〕

11  六四丁表六行目〔同41頁4段目14行目〕の「いるが」から同丁裏一行目〔同22行目〕末尾までを「いるところ、中川、青木、伊藤及び会田は、それぞれ同年四月一九日に計画年休を取得しており、寺沢については、当初四月一九日に八月一九日の計画年休を取得していたが、その後五月四日に同人から転勤準備のための計画年休変更の申立てがあり、鈴木課長により右変更が認められて、同日、八月一九日が五月一九日と変更されたものであって、鈴木課長は、これらの点を検討、確認のうえ、前記のとおり一審原告上原に対し、時季変更権を行使した。」と改める。

12  六四丁裏四行目と五行目〔同頁同段22行目と23行目〕の間に改行して次のとおり加える。

「4 一審原告上原の欠勤による業務に対する影響

一審原告上原が前記三日間を欠勤したため、鈴木課長は、五月一八日は小包二区担当の山形泰一を同一審原告担当の速達日勤一区に担務指定を変更し、同人に速達の配達を行わせたが、そのため、小包区の配送に支障が生じ、結果的に普通小包一二六個が一日滞留し、一九日は小包一区の小林洋一を同一審原告担当の速達日勤一区に担務指定を変更し、同人に速達の配達を行わせたが、そのため、小包区の配送に支障が生じ、結果的に普通小包七三個が一日滞留し、さらに、二〇日は通配一区の井口茂樹に午後超過勤務を命じて同一審原告担当の速達夜勤一区の配達に当たらせたが、その跡の補充が十分できず、速達郵便物五七通、通常郵便物二三二通が未配達もしくは半日遅れとなり、また、右前二日間の物数調査についても完全な実施ができなかった。」

13  六四丁裏六行目〔同段29行目〕の冒頭に「1」を加え、六五丁裏末行〔同42頁2段目3行目」の冒頭から六六丁表三行目〔同7~8行目〕の「認められないから、」までを「なお、昭和五三年五月一八日と一九日には、物数調査が実施されることになっており、したがって、通常の業務に、前記のような物数調査の作業が加わることになるので、業務の正常な運営を妨げるか否かの検討にあたっては、郵便物の配達の遅れや未処理の発生の恐れのみならず、物数調査が適切になされるか否かの考慮をも加えるべきであるから、」と改め、五行目〔同10行目〕の「否かは、」の次に「右作業量の増加をも配慮のうえ、」を加え、六行目〔同12行目〕の「平常」を削り、七行目〔同13行目〕の「決せられる」の次に「ことになる」を加える。

14  六七丁表一〇行目〔同頁3段目17~18行目〕の「配達区が生じ、」の次に「特に一八日と一九日は物数調査が実施されることもあって、」を加え、同丁裏一行目〔同20行目〕の「しかし」を「もっとも」と改め、五行目〔同26行目〕の「小包一区」から八行目〔同30~31行目〕の「更に、」までを削り、六八丁表二行目〔同4段目4行目〕の「したがって」から六九丁裏二行目末尾〔同43頁1段目22行目〕までを「しかしながら、前記認定の事実に証人鈴木英治の証言(原、当審)及び弁論の全趣旨を総合すれば、右三日間について第二班及び第三班に物数調査に適し、かつ、配達区に通区能力のある剰員はいなかったこと、また、従前より中原郵便局においては、後に請求された年休を取得させるために、先に年休、週休・非番日として欠務の予定されていた者に対して出勤の可否を打診し、その予定を変更してその者に出勤を命ずるという取扱はなされていなかったことが認められるところ、右取扱自体、これを不当、不合理とする理由はないというべく、本件においても、鈴木課長は、前記のとおり剰員の有無、欠務予定者の年休取得の時期等を検討、確認のうえ、一審原告上原に対して本件時季変更権を行使したものであり、そうである以上、右時季変更権の行使は、適法、有効というべきである。なお、小包一区に右三日間、連日要員を配置したことも、その日が物数調査の日(五月一八日、一九日)もしくは日曜日を挾んでその前日(五月二〇日)であったことに照らせば、相当な措置であったと認めざるを得ない。」と改める。

15  六九丁裏二行目と三行目〔同頁同段23行目と24行目〕の間に改行して次のとおり加える。

「2 一審原告上原に対する減給処分の当否

一審原告上原が昭和五三年二月七日に一〇分、同年三月一五日に五五分、同年四月七日に五五分、同年五月一日に三〇分、同年六月六日に三〇分の合計五回、三時間遅刻により欠務したこと、そして、中原郵便局長が同年六月三〇日一審原告上原に対し、同一審原告が同年五月一八日から二〇日までの三日間を欠務したこと及び右遅刻により欠務したことを理由として、二か月間俸給の一〇分の一を減給する旨の処分をしたことは、当事者間に争いがない。

右事実によれば、同一審原告については右処分事由に該当する理由があると認められるから、本件処分は適法というべきである。なお、一審原告上原は、一審被告による本件時季変更権の行使は、同一審原告が成田闘争に参加することを阻止する目的でなされたものである旨主張し、同一審原告及び一審原告松本各本人尋問の結果(いずれも、原、当審)中には、右事実をうかがわせる部分が存在するけれども、それだけでは右主張のとおり断ずることはできないのみならず、本件の場合、右に検討のとおり客観的に時季変更権を行使されてもやむを得ない事情が認められるのであるから、同一審原告の右主張は理由がないといわざるを得ない。」

16  六九丁裏三行目、五行目〔同頁同段23行目、25行目〕の各「及び同上原」を削り、六行目、九行目〔同27行目31行目〕の各「同原告ら」を「同一審原告」と、一〇行目〔同段末行〕の「そして」から七〇丁表五行目〔同2段目8行目〕末尾までを次のとおりそれぞれ改める。

「 ところで、(証拠略)、証人石黒安五郎の証言(原、当審)、一審原告松本主税本人尋問の結果(当審)によれば、一審原告松本は、五月一八日から二〇日までの三日間を欠務した後、五月末ころになってから、石黒課長に対し、右三日間の年休の振替予定日を先に同課長から通告を受けた六月一三日ないし一五日ではなく、六月一〇日、八月一〇日、同月一一日の三日間に変更してほしい旨申し入れたこと、そこで、同課長は、同原告の右希望日についていずれも業務に支障がないことを確認したうえ、右申出のとおりに計画年休の振替予定日を変更し、同原告は、現に右六月一〇日、八月一〇日、同月一一日の三日間を欠務し、手続上も計画年休として処理されたこと、なお、一審原告松本は、当初から計画年休の取得については、制度上認められた一〇日間を全部取得する予定を立てていたこと、したがって、本件で五月一八日から二〇日までの三日間を年休として認められることになると、実際には一三日間の計画年休を取得したと同一の結果となるが、同一審原告自身、右振替予定日の変更を申し入れた際に、右のような結果となることを明確に認識していたこと、以上の事実が認められる。

右事実によると、一審原告松本は、五月一八日から二〇日までの三日間の年休を取得したと同一の経済的な利益を取得したものと認められ、それにより、既に三日間分の代償を得ているものとみられ、かつ、主観的にもそのことを明確に認識しつつ、石黒課長に対し、振替予定日の変更を申し入れているのであるから、このような場合には、信義則上更に五月一八日から二〇日までの未払賃金を請求することは許されないと解するのが相当である。したがって、また、未払賃金請求権の存在を前提とする労働基準法一一四条所定の附加金請求もなしえないものといわざるを得ない。」

17  七〇丁裏三行目〔同頁2段目21行目〕の「、また」から一〇行目〔同31行目〕の「処分をしたこと」まで、七一丁表一行目、同丁裏五行目、七行目〔同3段目1行目、21行目、同24行目〕の各「両名」、七一丁表四行目、五行目〔同6行目、7行目〕の「各」、同丁表八行目〔同10~11行目〕の「原告松本の」、同丁裏一〇行目〔同28行目〕の「、原告上原は金二万二四〇〇円」をそれぞれ削り、同丁表五行目〔同5行目〕の「原告両名」を「右一審原告」と、七二丁表一行目〔同31行目〕の「弁護士費用」から同丁裏一行目〔同4段目13行目〕の「また、」までを「一審原告松本が本件処分によって昭和五四年四月から昭和五八年五月まで昇給が延伸されたこと、右処分がなかったならば、右昇給の延伸がなされず、既払分の給与のほかに合計金四万九三三二円の支払を受けられたことになることは、当事者間に争いがない。してみると、右金員も本件処分による損害というべきである。

また、本件事案の性質、認容額、審理の経過等に照らして、本件処分による損害の賠償として一審被告に負担させるべき弁護士費用は、第一審口頭弁論終結時まで金三万円、その後当審口頭弁論終結時まで金一万円をもって相当と認める。

なお、一審原告松本は本件処分による慰謝料をも請求するところ、」と、同丁裏二行目、五行目〔同14行目、19行目〕の「原告ら」をいずれも「一審原告松本」と、同六行目〔同20行目〕の「右各請求は、いずれも」を「右請求は」とそれぞれ改める。

18  (略)〔同段29行目の証拠の付加〕

19  七四丁裏八行目〔同44頁2段目13行目〕の「排送状況」を「配送状況」と改め、七六丁裏七行目の〔同4段目8~9行目〕「ことができる」の次に「(なお、前記の認定によると、一審原告竹内が欠勤した九月一六日に、一審原告竹内が所属する第三班の滞留郵便物数は前日の六〇六〇通から一七二〇通に減少しているけれども、右のとおり継続的に郵便物が滞留していること自体が異常な状態といい得るのであるから、滞留郵便物数が減少したことは、右のとおり解することの妨げとなるものではない。)」を加える。

二  以上によれば、一審原告らの本訴請求は、一審原告松本が減額された給与金二万一三六〇円と第一審口頭弁論終結時までの弁護士費用金三万円の合計金五万一三六〇円とこれに対する不法行為後であり、かつ、本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和五四年九月五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金及び本件昇給延伸による損害金四万九三三二円とその後当審口頭弁論終結時までの弁護士費用金一万円の合計金五万九三三二円とこれに対する不法行為後であり、かつ、本件附帯控訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和六一年九月二二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度において理由があるから、右の限度で認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。よって、一審原告松本の関係で原判決を本判決主文第一項のとおり変更し、一審原告上原の関係で同一審原告の勝訴部分を取り消して、同一審原告の請求を棄却することとし、同一審原告の本件附帯控訴及び一審原告竹内の本件控訴をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九六条、八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 前島勝三 裁判長裁判官牧野利秋、裁判官笹村將文は、転補につき、署名捺印することができない。裁判官 前島勝三)

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